新入社員の定着と即戦力化をかなえる!「オンボーディング」の極意

人事制度
この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

ブックマーク・フォローしませんか?

企業にとって「いかに優秀な人材を獲得し、定着させ、早期に戦力化するか」は、どの会社にとっても経営課題となっています。この課題を解決する鍵となるのが、「オンボーディング」です。かつては外資系企業が中心でしたが、近年ではスタートアップ企業を筆頭に、国内企業でもその導入が急速に進んでいます。この対象は、新卒社員に留まらず、管理職やプロフェッショナルとして入社する中途採用社員を含む全階層に広がっているのが特徴です。

今までの私の経験と、5月に開催されたATD25(Association for Talent Development International Conference & EXPO)での学びも踏まえ、採用活動の効果を最大化し、社員が早期に活躍するための「オンボーディング」について、その目的、具体的な施策、そして成功の秘訣を解説します。

オンボーディングの目的と計り知れない効果

 新しい環境に足を踏み入れる新入社員は、実務内容だけでなく、不慣れな社内システムや設備の取り扱い、新たな人間関係の構築、そして日常の些細な疑問を「誰に聞けば良いか分からない」といった多かれ少なかれ不安を抱えています。これらの不安は大きなストレスにつながるかもしれません。オンボーディングの最大の目的は、こうした新入社員の不安を早期に解消し、短期間で戦力として活躍できる状態へと導くことにあります。これにより、企業は以下の計り知れないメリットを享受できます。

  • 生産性の向上と早期戦力化:新入社員が早く会社に慣れ、能力を発揮することで、組織全体の生産性が向上します。これは、新入社員を早期に戦力として活かせることにつながります。
  • 人材の定着率向上と採用コスト削減:せっかく採用した社員が短期間で退職してしまう事態を避けられ、新たな採用活動にかかる膨大な費用や時間を抑制できます。離職率の低い企業は、総じてオンボーディングに成功しているケースが多い傾向にあります。
  • エンゲージメントと組織力の強化:既存社員がオンボーディング施策に積極的に関与し、新入社員を歓迎することで、「社員を大切にする会社」という認識が社内に醸成されます。これは社員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)を高め、結果として組織全体の結束力を強化する効果が期待できます。

オンボーディングは、まさに「Employee Experience(従業員体験)」そのものと言えます。この体験が良好であるほど、社員は会社に定着するだけでなく、より高い成果を出すための行動をとるようになるでしょう。

効果的なオンボーディングの具体例

オンボーディングの取り組み内容は、企業の目的や業種、文化によって多岐にわたりますが、ここでは新入社員の早期定着と活躍を後押しする代表的な施策と、最新のトレンドを融合した具体例をいくつかご紹介します。これらは、新卒採用社員だけではなく、中途採用社員にも応用可能です。

  1. メンター制度の導入: 直属の上司の負担を軽減しつつ、新入社員が気軽に質問できる相手を得るために、所属部署の先輩社員や人事部門が「メンター」として新入社員を一定期間(入社後3~6カ月程度)サポートします。これは、新入社員の不安を軽減し、早期の業務習熟を促します。
  2. 入社オリエンテーション/新人研修の実施: 会社組織、ルール、バリュー、人事制度、セキュリティポリシー、オフィス案内など、基礎情報を入社初日や早期に集中的に提供します。この機会は、同じ時期に入社した社員同士の横のつながりを生み出し、会社から歓迎されていると感じることで、新入社員の不安な気持ちを和らげます。
  3. 新入社員紹介の工夫: 社内イントラネットや掲示板に、新入社員の顔写真と本人からのコメントを掲載し、既存社員への周知を促します。これにより、実際のコミュニケーションのきっかけが生まれ、新入社員が早期に関係性を築く助けとなります。
  4. 入社初期(1~3カ月後)の目標とアクションプランの作成・表明: 入社直後の目標や行動計画を新入社員自身が作成し、周囲に表明することは、実務へのスムーズな移行を促すだけでなく、周囲の社員がどのようなサポートをすれば良いのかを明確にする役割があります。これは新たな環境での成功体験に繋がり、自信を持って業務に取り組めるようになります。
  5. 小規模な食事会・飲み会の開催:できるだけ早い時期に食事会や飲み会を設け、新入社員の「人となり」を知る機会を作ることも有効です。これは親友になるためではなく、仕事を円滑に進めるための「投資」と捉えるべきです。

オンボーディングにて重要視されている要素

また、このようなオンボーディングの施策を検討する際に、以下の要素が盛り込まれているのかもあわせて検討することが重要だと思います。「何をやるのか」を考えることは大切ですが、「その結果どうなることを期待するのか」「どうしてそれをやるのか」「必要以上に手間をかけていないか」といった点にも目を配るべきだからです。

  • Learner-Driven(学習者主導):新入社員自身が学習プロセスを自分でコントロールし、自身のスケジュールや必要な社内でのつながりを構築できるようにすることで、独立性と積極性を育みます。
  • 自動化(Automation):デジタルツールを活用して、オンボーディングプロセスの一部を自動化することで、効率的な情報提供やタスク管理が可能になります。
  • IN-the-Job Learningの強化:従来のOJTを強化し、業務と一体化したリアルタイムな学習を取り入れましょう。AIの活用も有効です。
  • 期待値の調整とカルチャーフィット:入社する本人と受け入れる側の双方で期待値を調整し、企業のカルチャーに早期に馴染めるようサポートします。入社時に「ウソをつかずに正直に」会社の状況を話すことで、良い意味で期待値を下げることもコツとされています。
  • こまめなフィードバック:入社者がこまめにフィードバックを受けることで、25%早く戦力化するという調査結果もあります。フィードバックを得られる仕組みの用意が重要です。
  • ローカルルールのマニュアル整備:その会社独自のルールや仕組み、社内用語など、いわば「ローカルルール」を明確にし、マニュアルとして整備することで、新入社員の戸惑いを減らします。
  • オンボーディングのプロジェクト化:オンボーディングを単発のイベントではなく、既存メンバーが支援をコミットし、ミッションに対する合意形成、問題解決の仕組みなどを備えたプロジェクトとして捉えることで、より実効性を高めます。

仕組みだけでなく「運用」と「気遣い」が成功の鍵

オンボーディングは、単に「制度・仕組み」を作るだけでは不十分です。最も重要なのは、それを実際に運用する既存社員、特に新入社員を受け入れる側の「マインド」と「アクション」です。

  • 「知らないことを前提に接する」:中途採用の経験者であっても、「全く知らない」という前提で接し、社内用語や独自の仕組みを丁寧に教えましょう。経験者だからこれくらいは知っているだろう、という思い込みが質問を躊躇させる原因になりがちです。
  • 「聞きやすい雰囲気づくり」:最初の2週間程度は意図的に既存社員から積極的に声をかけ、新入社員を「放置」しないよう心がけましょう。質問された際には、たとえパソコン作業中でも手を止め、目を見て話を聞くことが、信頼関係構築の第一歩です。

人事部門の役割は、オンボーディングの仕組みを作り、その運用状況を継続的にモニタリングすることです。例えば、入社後6カ月目といった節目でヒアリングを行い、効果が認められた施策とそうでない施策を検証し、次回のオンボーディングに反映させる「振り返り」と「改善」のサイクルを回すことで、より高い成果につながります。

オンボーディングは、新入社員が新しい環境で不安なく本来の力を発揮できるように後押しするための包括的な取り組みです。これは、採用コストの無駄をなくし、社員の定着率を高め、ひいては組織全体の生産性向上とエンゲージメント強化に直結します。

タイトルとURLをコピーしました