ワシントンD.C.で開催されたATD25に参加して印象的だったセッション内容の中から、「IN-the-Job Learning」の重要性と実践方法について共有します。「IN-the-Job Learning」の考え方を活用し、効果的に組織や個人がこの手法を実践することで、持続可能な学びの文化が形成され、変化に迅速に対応できる組織形成につながるでしょう。
5/18「Going Deeper: From On to IN-the-Job Learning」の内容をベースにしています。
IN-the-Jobの定義
社員の能力成長は組織の発展に不可欠ですが、従来のOJT(On-the-Job Training)には多くの制約がありました。「IN-the-Job Learning」は、これらの限界を乗り越える革新的なアプローチです。
従来のOJTが、実施のために時間を費やしたり、業務とは切り離された追加の課題を行うことが求められたことに対し、「IN-the-Job Learning」は業務そのものと学習を統合しています。個人が意図的に日常のタスクを通じて能力を磨き、別途研修などの学習機会を待つことなく、リアルタイムでスキルを向上させることができます。
この手法の特徴は、本人の自主性を重視し、組織の承認無く自発的に学習を進められる点にあります。「IN-the-Job Learning」は、従来の研修による学びとは異なり、業務の中で行われる学びのことを指します。
「IN-the-Job」は、メンバー(Individual)が行うのか/リーダー(Leader)が行うのかという切り口と、単独(Solo)で行うのか/共同(Collaborative)で行うかという2×2のマトリックスに分類できます。

具体的にどのような方法なのかを見ていきましょう。
メンバー(Individual)による方法
単独(Solo):目的意識をもった練習(Purposeful Practice)
日常の仕事の中で特定のスキルを意図的に磨き、日常業務を成長の機会に変える方法です。手順は以下の通りです。
- ①まず、「特定のスキル」を決めます。例えば「聞き手にとって理解しやすいプレゼンテーションを行えるようにしたい」といったものです。
- ②次に、そのスキルを発揮できる機会を探します。リスクを最小にするために、低リスクの場面を選びましょう。(いきなり全社会議ではなく、チームミーティングにするなど。)
- ③その機会の中で、達成したいことを明確にします。「新しいプレゼンテーションの技(例:最初に聞き手の誰かに質問を投げかける)を試みる」といったことです。
- ④実践した上で、成功したかどうかを判断しつつ他者の反応を観察し、改善点を見つけます。また、経験から得た教訓を明確にしましょう。
この方法は、個人が組織の承認を得なくても自主的に学習を進めることができます。
共同(Collaborative):プルコーチング(Pull Coaching)
社員が自ら特定のテーマに対してコーチングを求めるスタイルのことを指します。上層部からの指示を待つのではなく、自分自身の必要に応じたフィードバックを能動的に求めるアプローチです。
- ①自分がどのスキルを向上させたいのかを特定します。
- ②自分のニーズに合った助言者を特定します。これは、同僚・部下など特定テーマに関してアドバイスをもらえる方であれば、どなたでも構いません。
- ③上記の助言者にサポートを依頼し、どういったことをアドバイスしてほしいのかといった詳細を共有します。
- ④同じミーティングにいた場合などは、終了後にフィードバックを受けます。
時間をかけずに、社員が即時に特定のテーマに関してフィードバックを受けることができ、実務の中での学びを深めることができます。
リーダー(Leader)による方法
単独(Solo):意図的なデモストレーション(Deliberate Demonstration)
強化したいスキルや行動を明確にし、期待される行動や結果をリーダーが模範として示すことです。リーダーや経験豊富なメンバーが実際にスキルを実演することで、他の参加者が具体的なイメージを持つ手助けをします。
これは山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」をそのまま体現したようなものだと思いました。
共同(Collaborative):学ぶための会議(Meet to Learn)
チームが明確な目標を設定し、会議の場を学びの機会として最大限に活用する方法です。意図的に質問を投げかけることで、メンバー間の活発なコミュニケーションと学びを促進します。
- 目標設定
- チームが成し遂げるべき明確な目標を設けます。たとえば、コミュニケーションの改善、意思決定手順の簡素化などです。
- 実施手順
- 目指す成果を明確にして共有することで、メンバーが目標を意識できるようにします。
- チームメンバーの反応を引き出すために、意図的に学びを促進する質問を投げかけます(例: 「今週、顧客について発見したことは何ですか?」)。
- 会議の最後に、参加者に「今日の最大の学びは何ですか?」と質問することで学びを明確にする。
AIを活用したIN-the-Job
こういった「IN-the-Job」による学びにおいて、AIを活用することができます。例えば以下のような使用例があげられていました。
- スキル習得をサポートするための質問を通じた理解の促進をはかる
- 学習プロセスの計画立案をAIに依頼する
- 自己評価ツールを作成してもらいスキルレベルを確認する
- 特定の状況に応じたコーチング(例:「緊張状況でのコミュニケーション」)を受ける
このセッションでは言及されていませんでしたが、AIを学習の中で使いこなすには「AIリテラシー」を有していることが必須となると思いました。
IN-the-Jobの重要性
「IN-the-Job Learning」は、単なる学習手法を超えて、組織の持続的な成長と個人の能力開発を根本的に変えるアプローチです。従来の制約から解放され、リアルタイムで学び、成長できるこの手法は、現代のビジネス環境において不可欠な戦略かもしれません。
AIやデジタルツールの進化により、学習はさらに個人化かつ即時的になっています。社員は瞬時に必要な知識やスキルを獲得できるようになりました。今後、「IN-the-Job Learning」はますます重要性を増すでしょう。変化の速い現代社会において、継続的な学習と適応能力は競争力の源泉となるからです。