【ATD25】L&D部門が鍵を握る!企業にAI・新テクノロジー導入を成功させる「たった一つのスキル」

ATD
この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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アメリカで開催されたATD25に参加し、特に印象的だったセッション内容の中から、AIや新テクノロジー導入に関する重要な学びを共有します。

AIなどの新しい技術を導入するには、企業の戦略的目標と適合させ、具体的な課題を解決することが重要です。L&D部門(あるいはL&Dスペシャリスト、以下、L&Dと記載)は、部門横断的なコラボレーションを確保しながらプロジェクトを主導する必要があります。

昨年(ATD24)において出席したスピーカーのセッションに、今年も参加しました。

中心的役割を担うのがL&D

AIや先進的なデジタルソリューションを組織に導入する際、重要となるのは技術そのものではなく、「戦略との整合性」と「部門横断的なプロジェクト推進」です。

その中心に立つのがL&Dです。L&Dは「人材育成」だけにとどまらず、変革推進のコア部門として機能する必要があります。

「それはITの領域では?」と思われる方も多いかもしれませんが、テクノロジー導入は全社の変革プロジェクトであり、L&Dは組織変⾰の中⼼的な推進者として極めて重要な役割を担っています。L&Dの中心的な関与なくしては成功し得ないというのが、セッションスピーカーおよび私の共通見解です。

学習の質を高めるAIの活用

  • コンテンツ制作
  • パーソナライズラーニング
  • VR / ARを用いた没入型トレーニング

効果的な技術導入に必要な3つのステップ(綿密な計画、リスク管理、ビジネスケース構築)について述べていきます。

綿密な計画

新テクノロジー導⼊の成功は、徹底的な計画と綿密な準備にかかっています。まず、組織の現状をふまえて、新テクノロジーを導入するニーズと目的を明確にすることが最初のステップです。例えば、「VRを研修に使いたい」ではなく、「危険な状況を研修の中で経験させたいが、現実世界で構築するのは難しい」から「VRを検討する」べきです、

研修領域において、「XXを入れる」からスタートして、次に「何に使うのか」を検討することが往々にしてよくあることです・・・。

組織における戦略⽬標との整合性確保は、テクノロジー導⼊の成功を左右する重要な要素ゆえ、組織のミッション、ビジョンや中⻑期戦略にどのように貢献するかを明確に定義することになります。例えば、⽣産性向上、イノベーション創出、顧客体験の改善など、具体的な戦略的成果を特定し、その達成可能性を検証します。

そういった検証の中で、経営層や他部門(IT、セキュリティ、ファイナンスなど)といったステークフォルダーが明確になってくるので、早い段階で連携をすることになります。L&Dだけで全ての情報が得られることはなく、経営層や他部門に協力をあおぐことは一定規模の組織であれば必須です。

また、こういった計画の中で、「全社に一斉展開」ではなく「段階的な展開」であったり、「パイロットテストを実施後に、全社ロールアウトを判断する」といったことも盛り込みます。

リスク管理

リスクの徹底的な分析も不可⽋です。技術導入において、リスクは大きく4つに分類されます。

  • 技術的・運用的リスク
  • 財務的リスク
  • 人的リスク
  • プロジェクト関連リスク

これらのリスクを正確に理解することが、成功への第一歩となります。また、リスクが発生する可能性と影響度をふまえて優先度を設定し、さらに、代替案も検討しておきます。

リスクへの対応には4つの方法があります。

  • 回避:リスクの高い取り組みは行わない
  • 軽減:リスクの影響を最小限に抑える
  • 移転:リスクの責任を適切な部署に委譲
  • 受容:軽微なリスクは許容する

また、リスク責任者を該当部門に割りふりましょう。リスクは一人で背負うものではなく、組織全体で共有し、管理するものです。完璧なリスク管理は存在しません。しかし、重要なのは、リスクを理解した上で戦略的に管理することです。

ビジネスケース構築

ビジネスケースを構築するために最初に行うことは、組織における具体的な課題の特定です。単なる技術導入ではなく、「目的ベース」で語る必要があります。例えば、「新入社員の生産性向上」や「トレーニングプロセスの効率化」といった明確な目標を設定することが重要です。

次に、関係部署の意思決定者を早期に特定し、対話を行います。IT、財務、法務など、各部門の視点や懸念点を理解することに注力します。潜在的な課題や新テクノロジーに対する期待を引き出しましょう。さらに、各ステークホルダーの関心に合わせたアプローチを準備します。

さらに、導入による効果を定量的・定性的に分析します。具体的な数値でのROI算出、短期・長期的な成果指標の設定を行います。

最後に、30〜60秒で要点を説明できるエレベーターピッチを作成します。技術的な複雑さを平易な言葉に「変換」し、組織の戦略目標との直接的な関連性を明確に示します。財務部門、IT部門、経営層などそれぞれに最適化された説明資料を準備し、共感をもたらしつつ論理的根拠を有するものにしましょう。

パイロットテストの重要性

このような新テクノロジーの導入・展開は、いきなり全社導入を行うより小さくはじめる(パイロットテスト)を行ってから順次拡大していく方がうまくいく、とスピーカーはおっしゃっていました。これは、他のセッションでも同様のことが言われていました。例えば、私が5/20に出席したセッション「Driving Innovation: Lessons From Tesla’s VR Training Pilot」においても、「段階的導入、ユースケースの重要性、データに基づく意思決定」がXR展開において重要であると強調していました。

プロジェクトマネジメントそのもの

ここまでお読みになった方はお気づきかもしれませんが、新テクノロジー導入に必要なのは、まさにプロジェクトマネジメントスキルです。

L&Dが「育成」だけを担う時代は終わりつつあります。戦略的思考、部門間連携、効果測定、リスク管理など、多面的なスキルが求められているのです。L&Dの役割が拡大する今、新テクノロジー導入を成功させる鍵は、「プロジェクトを成功に導く力」に他なりません。

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