ノーレイティングを導入したら、評価制度に対する課題は解決するのか?ダメ人事担当者にならないために考えてみよう

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この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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最近、評価制度における「ノーレイティング」というコンセプトが台頭してきています。GEやAdobe、GAPなど外資系企業を中心に新たな評価制度として使われている手法です。私も今年の初めに、下記のような記事をアップして、はてブを中心にバズりました。タイトルの「人事評価制度やめたってよ」というワードは、意図的につけたものです(笑)。評価制度をやめたのではなく、最終評定をつけるのをやめたというのが本質。

「現場部門から評価制度に対する不満も出てきているから、最近トレンドになっているノーレイティングを導入しよう?」

それ、ダメ人事担当者!

「じゃあ、質問です。ノーレイティングを導入したら、不満はなくなるのか?課題解決につながるのか?」

短期間での振り返りとフィードバックの方が重要

ノーレイティングとは、最終評定の「A」とか「B+」といったものをつけない、というのが最も大きな特徴です。その他に、業務の振り返りやフィードバックを短期間で行うことをセットにしております。実は、評価制度においては前者よりも後者の方を重視しつつあります。VUCAの環境下では、状況はどんどん変わってきています。それこそ、当初予定していたタスクがなくなったり、目標を立てていた時には想像もしていなかったことが突然発生したり・・・。ビジネスに変更はつきものです。そういった時に、年に1回の評価のタイミングでは追いつかないケースも増えつつあります。

マネージャーの裁量権と難易度は増す

一方、評定はつけないけど、昇給や賞与に関しては上司が従前より大きく関与します。今までは、「A」「B」といった4つか5つの評定のいずれかをつければ終わりでした。しかし、ノーレイティングになったことによって、部門ごとに原資が与えられ、それを「分配」することが上司の役割となるケースが増えています。

評点の「A」は全体の中でどの程度の割合(人数)で、どのような基準なのかがある程度決まっている中で、評点をつけていました。それに替わって、評点という「基軸」が無い中で原資を「配分」させることになります。

つまり、マネジャーは評定があった時以上に、昇給や賞与に関する裁量権が増えることを意味しています。これは同時に、それが遂行できるマネージャーとしての能力を有している必要があるので、評定があった時よりマネージャーがやるべきことの難易度は高くなるとも言えます。要するに、部下から、「なぜ、自分の賞与はXX万円となったのか、あるいは昇給率を1.2%としたのかという論拠」を、評定を使わずに説明できなければいけない、ということです。

普段からのコミュニケーションが大切

「評定を使わずに部下が納得する説明」をするためには、普段から部下とコミュニケーションをとっていることが肝要です。これを具現化したのが、「One On One(ワンオンワン)」だったり、「Touch Base(タッチベース)」とよばれる、「1対1」でのミーティングです。こういったフォーマルなもの以外にも、廊下ですれちがった時などのちょっとした会話(=インフォーマルコミュニケーション)なども含まれます。

全く会話も接点も無い、何を見ているのか見ていないのかもわからない人(上司)に、いきなり「昇給は0」とか「他と比べたら成果出していないので減額」などと言われて、「それは、仕方ないですね」と言う人はまずいないでしょう。

そうならないためには、普段から部下が何をしているのか、どんな成果を出しているのか、どこで困っていてサポートする必要があるのか、セーフティーネットの中でチャレンジしてもらうのか、やり方を指示してそこから自分なりのやり方を学んでほしいのか・・・といったことを掌握し、さらに適切なタイミングで適切なサポートやフィードバックをしていないといけません。この時に、「シチューエーショナルリーダーシップ」のフレームワークは有効だと思っています。

納得度の高い評価制度であること

評価制度に対する不満として多くあげられるのは、「何をもって評価されるのかわからない」「評価基準があいまい」といったことのようです。評価される側として経験がある方ならば、思い当たる節がある方も多いでしょう。

出典:組織の力を高めるために、どのような評価・処遇を行うか?

「完全に公平な評価制度」は存在していないと思いますが、納得度の高い評価制度は運用次第でつくることができると思っています。納得度を高めるには他人事ではなく、どういう点を評価しているのか/評価していないのかということを、明確に上司が部下に主体性をもって説明し、それに対してメンバー(部下)が納得(腹落ち)していることが肝要です。

そういった納得度の高い評価制度を運用していくためには、上記で申し上げたように普段からの質の高いコミュニケーションが欠かせないと思います。また、そういった評価制度を支えるためには、制度を導入するだけではなく、それを定着させる「評価者研修」などによる「啓蒙活動」も人事部門の役割です。

ノーレーティングにするかどうかは本質ではない

近頃、「ノーレイティング」=最終評定をつけないことばかりが取り上げられていますが、私は、以下の3つの実現/実行が評価制度においては重要だと思っています。

  1. ビジネスの早い展開にあわせて、目標の設定→実施→業務の振り返り・フィードバックの一連の流れを短期間で行う
  2. 上司と部下が質の高いコミュニケーションを普段からとることによって、部下の評価制度やその結果に対する納得度が高い
  3. 上司の力量に依存するだけではなく、現場のマネージャーを支えるしっかりとした評価制度およびそれを啓蒙する仕組みを人事部門が提供する

つまり、評価制度の肝は、「ノーレイティングにするのか、従前のように最終評定をつけるのか」ということではないのかもしれません。

実際、私が事業会社で勤務していた時は、いわゆるMBOによる目標管理を行っており、達成率%という形で最終評定がついていました。しかし、評価者研修や社員と話す機会があるときは折にふれて、「2」は伝えていました。これを実践していると、評価面談の時間が短くなります。普段からコミュニケーションをとっているので、改めてあれこれ話すことが必要性が少なくなるからです。
「1」については、「年初に設定した目標を変えなければいけないビジネス上の大きな変化が発生したら、話し合いのもと、目標の修正を行うべきです。それを円滑に行うためにも「2」は大切」といったことを話していました。中間面談や評価面談の時期を待つ必要など全く無いのです。

最終評定をつけているから評価制度として成り立たなくなっている、というわけではありません。目標を管理することを目的ととらえてしまい、社員の成長をうながすための手法であることを忘れてしまっているだけです。従来の評価制度も、その根底にあるコンセプトに立ち返って企業の特徴をふまえて運用していけば、十分に機能すると思っています。

評価制度の前提となる目標設定については、OKR(Objective and Key Result(目標と主な結果))という考え方も出てきています。これについては、別の記事で。

<2018年11月18日追記>「@人事」編集部から評価制度について取材を受けた時も、ノーレイティングについてもふれています。

<2017年11月16日追記>OKRに関しては、別記事にしました。

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