ATDとHR Tech:あなたの課題解決に必要な最新情報はどちらにあるか?

ATD
この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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アメリカにて毎年5月に開催されるATD-ICE(以下、ATDあるいはATD2Xと記載)と、9月~10月にラスベガスで開催されるHR Techは似ているところとそうではない点があります。そもそも同じ人事領域をテーマにしたカンファレンスであるものの、ターゲットが異なっていると思います。今回は、2025年時点で、ATDに現地7回HR Techに2回参加したことがある筆者の独断で、この両イベントの特徴や違いをご紹介します。来年以降に、参加を検討する際に参考になれば幸いです。

私見です。Expoについては、ほとんど言及していません。

共通点

ATDとHR Techは、人事・人材開発領域の最新情報を得るためのアメリカで開催されているカンファレンスであるという点が共通しています。

両方とも2025年においては、AIや新しいテクノロジーの導入がもたらすHR変革を主要な論点として扱っており、参加者はそれぞれの領域における「新たな常識」やマーケットの現状や展望を把握することができます。AIは単なる省人化の手段ではなく、仕事の設計やスキル要件、人事機能そのものを再構築する力を持っているというメッセージが発信されています。

大規模な国際カンファレンスのため、最新の情報を得るためには、参加セッションの検討や資料の確認など事前準備が参加成功の大きな要素です。

ある年に爆発的にとりあげられていたテーマが2年後くらいには全く見向きもされずフェードアウトしている、あるいは、「前提」として定着しているといったことは、両方のカンファレンスで起こっています。

相違点

両者の最大の相違点は、その注力分野(フォーカス)と開催時期、場所です。

カンファレンス名主要な焦点開催時期と場所
ATD人材開発(L&D)スキル、学習方法、研修ファシリテーション、L&Dを実施するためのテクノロジー5月頃(ワシントンD.C.、ニューオーリンズなど毎年開催地が変わる)
HR TechHRテクノロジー市場の動向、HRTechを軸とした事例9~10月頃(ここ数年はラスベガスで開催)

ATD

ATDは、人材開発(L&D)領域にフォーカスしたカンファレンスです。カンファレンスのカテゴリーは数多く定義されていて、どこからアプローチするのかという違いはあるものの、社員の成長のために何を行うのか、そしてその結果としてビジネスにどのように貢献できるのかといったことが根底にあります。

具体的にはL&D部門が、AIや新テクノロジー導入を成功させるために必要なスキルであったり、従業員のスキル向上と業務効率性といった目的に応じたテクノロジーの評価・導入といったものがあげられます。また、社員の成長を支える具体的な実践方法(研修ファシリテーションにおける有効事例や、脳科学の観点をふまえた学習アプローチなど)についても共有されます。

5月に参加したATD25においては、AIによる変化を積極的に取り入れつつも、リーダーの「あり方(Being)」や心理的安全性・学習効果など、人間的成長と定性的価値を再確認し、そちらも重視しているように感じました。スキル育成に関しても個別最適化の重要性を認識しつつ、行動と実践を軸にしています。具体的には、「研修」のようなOff-JTの機会だけではなく、業務の中で学習することを推進しています。

HR Tech

HR Techは、HRテクノロジーの市場全体と、それが人事業務全般にもたらす変革に焦点を当てています。市場の展望の変化、大手テクノロジー企業(例:Microsoft社やIBM社など)の人事領域への動向、そして技術の進化から読み取れる人事の「新たな常識」の確立がメインとなります。テクノロジーやマーケット動向を俯瞰する視点が強くなります。

AIが登場する前から、採用管理に関するソリューションが比較的多いです。また、スタートアップ企業が出展したり、スタートアップ企業を対象としたピッチフェスが開催されているため、「新興企業」を発見する機会に恵まれています。

AIによる業務効率化やコスト削減といった定量的成果を重視し、データに基づく人事業務や役割の再設計について言及されているようです。スキル育成のための学習を提供するアプローチも、HR Techのセッションにおいては、AIによる個別最適化を追求することで、「L&Dの役割が大きく変化する」「今まで複数で担当していた業務を、AIを活用して一人で行うスーパーワーカーが出てくる」といったことが話されていたようです。(最後に参加したのが2022年なので、参加された方々のレポートやSNS投稿などを拝見した上での推察です)

どちらがよい?

どちらが良い、悪いということではありません。どちらがみなさんの目的に合致しているのかを考慮しましょう。あるいは、特徴の違いを理解した上で両方に参加することも選択肢としてあがってくるかもしれません。

ATDがおすすめの人

  1. 人事部門(特にL&D部門・担当)や人事コンサルティング会社などに所属し、社員の成長、育成戦略などに携わる方。
  2. 新しいテクノロジーを導入する際に、それが企業の戦略的目標と社員のスキル向上にどう結びつくか、実践的な知見を求めている方。
  3. 現場の実務者として、学習や育成のトレンドを学びたい方。

社内外のファシリテーター・L&Dスペシャリストや人事コンサルタントが集結していると思います。

HR Techがおすすめの人

  1. 人事部門の中でも、テクノロジー戦略、システム選定、市場動向の分析に責任を持つ方。
  2. HR Techマーケットの全体像や、技術の進化が人事プロセス全体にどのような変革をもたらしているのかを把握し、今後の投資・事業戦略を練りたい方。(人事サービスベンダー)
  3. 人事システム領域における大手プレイヤー(ベンダー)の動向に注目している方。

アメリカを中心とした人事サービスベンダーの祭典といった要素が強いと思います。

最後に

現在の役割と組織が最も解決したい課題や知りたいテーマに応じて、参加するカンファレンスを選ぶことが、最新の知見を最大限に活用できるキーとなります。もちろん、上記の内容を理解した上で、両方に参加することも選択としてあるでしょう。

そもそも、時間と金をかけてアメリカのカンファレンスに参加する理由はこちら。

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