ハラスメント対策の決定版。相談窓口設置と研修展開のベストタイミング、企業が講じるべき全措置

人事制度
この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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2022年4月1日より、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が中小企業を含む全ての企業に適用され、職場におけるパワーハラスメント防止のための措置が義務化されました。企業は適切なハラスメント対策を講じることが法的な義務として求められています。本記事では、特にハラスメントの相談窓口設置と研修展開の時期・タイミングに焦点を当て、企業が法に基づき行うべきことと、その際の留意事項を取り上げます。

企業に義務付けられたハラスメント対策の基本

厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置として、以下の4点を明記しています。

  1. 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発:ハラスメントとは何かを定義し、防止策を明確にすることです。
  2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備:具体的には、相談窓口の設置を指します。
  3. 職場におけるパワー・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応:ハラスメントが発生した場合の具体的な対応手順を定めることです。
  4. 併せて講ずべき措置:上記の措置に加え、プライバシー保護などを含む多角的な対策が求められます。

これらの措置は、ハラスメントのない健全な職場環境を構築するために不可欠です。

今回は詳細は割愛しますが、「3:職場におけるパワー・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応」についてはこちらを参照ください。

相談窓口設置と研修展開の最適な時期・タイミング

「ハラスメントのための相談窓口を設ける」ことに着手することが、最初に行うべきことでしょう。これは「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備」に該当し、窓口を設けることで「ハラスメントが発生した時にどのように対応するのか」を具体的に設計することと同じだからです。この窓口の存在は、社員にとって安心材料(セーフティーネット)となり得ます。

私が在籍していた会社では、当初、外部委託による相談窓口設置後に課題に基づいた研修実施を想定していました。その後、「相談窓口の設置よりも、先んじてハラスメント研修による社員への知識啓蒙活動を行った方がよい」という方針転換があり、全社員へのハラスメント研修の実施を経てから相談窓口を設置するという順序に変わりました。

2020年6月の改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が制定・施行される前だったこともあり、「企業による任意施策」という状況だったことも背景としてありました。

企業がハラスメント対策を進める上で、状況に応じて柔軟なアプローチが必要であることが必要であるといえます。研修を通じて社員の知識を高めることは、ハラスメントの予防に繋がり、その後の相談窓口の適切な活用にも寄与するでしょう。

相談窓口の設置と運用における留意事項

相談窓口の目的は、職場環境におけるトラブル、特にパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントのようなセンシティブな内容の解決です。設置にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

相談チャネル

社内窓口と社外窓口の併用検討:社内窓口は相談員も同じ社員であるため、相談者の状況が理解しやすく、調査がスムーズに進むメリットがあります。一方、社外窓口は社員が社内の人に知られることなく安心して相談できる点や、問題が悪化する前に予防的措置が期待できるメリットがあります。可能であれば両方を設置し、相談内容や状況に応じて社員が選択できるようにしておくことが望ましいと思います。

体制

  • 社内窓口の体制整備:人事部門やコンプライアンス専門部門に設置されることが多く、相談員は複数名任命し、男性だけ、女性だけといった構成にならないよう配慮が必要です。また、相談員に対しては、ヒアリング方法や守秘義務に関する研修を行うことが不可欠です。相談の受付方法も、対面だけでなく電話やチャットなど複数の方法を用意することが望ましいとされています。
  • 社外窓口の選定:ハラスメント相談を専門とする会社や社外弁護士への委託は、社内業務負担の軽減や相談のしやすさを重視する企業に適しています。委託先の事業者選定では、24時間365日対応の有無や、問題解決への関与度(感情面のフォロー、カウンセリング、具体的な解決支援など)を考慮し、自社のニーズに適しているかを判断する必要があります。

利用対象者

  • 相談内容の対象範囲と利用者:どのような相談を受けるのかを定義し、ハラスメントの概念を再確認します。利用対象者は全社員が原則であり、派遣社員などの非正規雇用者も含まれるべきです。
  • 匿名相談の限界:匿名での相談の場合、事実確認や詳細ヒアリングが不可能となる場合があるため、その点を周知徹底し、不利益が生じることは一切ないと伝えることが重要です。

啓蒙

周知徹底:新入社員向け研修などで相談窓口の存在を必ず紹介し、積極的な活用を促します。同時に、「職場環境をつくるのは、上長だけの責任ではなく、そこに関わる全ての人の責任である」という意識も伝えることが大切です。

研修展開における留意事項

研修はハラスメント防止の啓発措置に含まれます。効果的な研修を実施するためには、以下の点に留意することが求められます。

  • 階層と職種に応じた実施方法:実施方法については、職場環境などを考慮して選定することをお勧めします。例えば、私が勤務していた会社では、管理職には集合研修、オフィス勤務の非管理職にはe-Learning、店舗勤務の非管理職には冊子配布とレポート提出というように、対象者の状況に合わせた多様な方法で研修を実施しました。
  • 受講促進とフォロー:LMS(Learning Management System)なども活用し、適切なフォローを行いましょう。上記の私が勤務していた会社におけるe-Learningの場合、繁忙期を考慮して受講期限に余裕を持たせたり、未受講者へのメール送信や人事部門による直接フォローを行うことで、9割以上の受講完了を達成しました。

上記をあわせて、ハラスメント研修における失敗に陥りやすいケースを事前に把握した上で、それを回避するにはどうすればよいのかも確認しておきましょう。詳細は別記事としてまとめています。

 ハラスメントが発生しない職場環境をつくる

 ハラスメント対策は、単に法令を遵守するだけでなく、ハラスメントそのものが発生しない職場環境をつくることが最も重要です。これは会社側だけでなく、会社を構成する全ての人の責任であると言えます。社員が安心して相談できる環境を整備することは、離職を防ぎ、企業が持続的に成長するための重要な基盤となります。

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